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札幌高等裁判所 昭和50年(ネ)25号 判決

主文

本件各控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取り消す。控訴人に対し、被控訴人河井輝夫は原判決添付物件目録記載の(一)、(二)、(九)、(一一)の各土地につき、同徳田傳は同目録記載の(四)の土地につき、同野幌林産株式会社は同目録記載の(五)の土地につき、同江別市は同目録記載の(六)、(七)、(一〇)、(一二)の各土地につき、同河井英二は同目録記載の(三)、(八)の各土地につき、それぞれ真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続をし、かつ、その引渡をせよ。被控訴人年金福祉事業団は同目録記載の(五)の土地につき札幌法務局江別出張所昭和四一年七月二日受付第三五八三号抵当権設定登記の抹消登記手続をせよ。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人ら代理人は主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠関係は、次のとおり訂正するほか、原判決の事実摘示(添付物件目録を含む)と同一であるから、これを引用する。

原判決五枚目表一一行目から同裏一行目まで(四項全部)を次のとおり改める。

四 控訴人(抗弁に対する認否並びに再抗弁)

抗弁事実は、いずれも否認する。ことにその3については、訴外河井英一は本件土地の管理人であり、そうでないとしても小作人であつたから、同人の占有は権原の性質上所有の意思がないものであつて、取得時効の要件を欠き時効によつて所有権を取得すべきいわれはない。

五 被控訴人ら(再抗弁に対する認否並びに再々抗弁)

訴外河井英一が小作人であつたことは、認める。しかし既に述べたとおり、同訴外人は昭和三一年七月二三日、同訴外人が控訴人の代理人であると信じていた訴外佐藤厚との間の契約により本件土地を代金六〇万円で買い受け、その後農地法第三条の許可を受け、右代金の支払をすませたうえ、翌三二年三月九日所有権移転登記を了したものであり、それによれば、訴外河井は遅くとも右三二年三月九日新権原によりさらに所有の意思をもつて占有を始め、同人の占有はこのとき他主占有から自主占有に転換したものというべきであるから、取得時効の要件に欠けるところはない。

六 控訴人(再々抗弁に対する答弁)

訴外河井英一、訴外佐藤厚間の売買契約は、訴外佐藤に代理権がなく効力を生じないから、訴外河井が新権原による占有を開始したものとはいえない。

理由

当裁判所も、控訴人の本訴各請求は失当として排斥を免れないものと判断する。その理由は、次のとおり訂正するほか原判決の理由説示と同一であるから、これを引用する。

一  原判決六枚目裏末行の「認めるべき証拠」から七枚目表三行目の「できない。」までを、次のように改める。

「認めるべき証拠もない(佐藤が管理人であつたとする原審における死亡前の原審被告河井キヨ、控訴人河井英二、同河井輝夫各本人尋問の結果は、にわかに採用することができず、乙第一、第三号証は、佐藤が管理人ないし代理人と称して行動していたことを示すにすぎないし、前記認定の小作料が佐藤に支払われていた事実のみから、直ちに、同人が小作料受領の代理権を有していたものと推認することはできない)。」

二  同七枚目表末行の「かかる場合には、」から同裏四行目の「ない。)、」までを、次のように改める。

「しかして、前認定のとおり訴外英一は本件土地の小作人であつた(管理人であつたとする控訴人の主張は、これにそう原審における控訴本人尋問の結果は、にわかに採用することができず、他にこれを認めるに足りる証拠がなく、採用することができない)のであるから、小作人当時の同人の占有は、権原の性質上所有の意思のない他主占有であつたといわねばならず、したがつて民法第一八六条所定の所有の意思の推定はくつがえされたものというべきであるが、同人は、さきに認定したとおり、昭和三一年七月二三日ごろ控訴人の代理人と称する訴外佐藤との間に締結した契約により本件土地を買い受け、農地法第三条所定の許可を受けたうえ、翌三二年三月九日所有権移転登記を受け、代金の支払も了したのであるから、訴外英一は、遅くとも右登記の日の昭和三二年三月九日には、民法第一八五条にいう新権原によりさらに所有の意思をもつて本件土地の占有を開始したものというべきである。もつとも、前認定のとおり訴外佐藤は代理権を有せず、したがつて右売買契約の効力が直接本人である控訴人について生ずることはなかつたのであるが、右第一八五条にいう新権原とは、売買や贈与などによつて所有権の移転があることのみならず、その移転があるとせられることをも指すものと解されるから、このことはなんら他主占有から自主占有への転換を認めることの障害となるものではない。」

それゆえ原判決は相当であつて、本件各控訴は理由がない。よつてこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

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